思い出話 その三


1度だけ出会った税関検査

 本来ひとつのベルリンという都市が東西に分かれている、ということは様々な不思議な現象を生み出しました。東京で言う山手線のような市内を走る「Sバーン」と呼ばれる鉄道にも、その不思議がありました。西ベルリンから東ベルリン(東独側)へ行く方法のひとつに、この鉄道を使う手がありました。西ベルリンでSバーン3号線の東ベルリン・フリードリッヒ通り駅行きの電車に乗ります。すると電車は境界線(壁)を越えて東ベルリンに入って、終点のフリードリッヒ通り駅に到着します。そしてホームに降り立つと、ここは紛れもなく東ベルリン、つまり東独です。でも、そのままでは駅の外に出られないばかりか、東側の人が使う隣のホームにすら行けません。

電車
東西ベルリンを行き来する電車(右側奥が東ベルリン)

 そうです。ホームが完全に仕切られているほか、東独の国境警備兵がうじゃうじゃいて厳重に監視しているのです。また、あちこちにビデオモニターがあって、ホームの仕切りを越えたりする不穏な動きがないか見張っています。東側にいるけれど、東側の人はいないという不思議な空間でした。さて、この先、どうするか…。

 1.検問所を通って東ベルリンに入る。
 2.同じようにこの駅に乗り入れている西側の人専用の地下鉄などに乗り換えて、再び西ベルリンに戻る。
 3.来た時と同じ路線で西ベルリンに戻る。


 どれでもいいのです。問題は、ホームや乗り換え通路に数か所ある売店(インターショップ)なのです。この売店ではお菓子など普通のもののほかに、ウイスキーやタバコなどを売っていました。カメラなんかを扱っている店もありました。西側の人向けなので、東独のマルクは使えず西独のマルクだけしか通用しませんでしたが、免税価格で売られていました。これは魅力的です。例えばタバコは西ベルリン価格に比べ3割ほど安かったようです。

 ちょっと電車に乗って、フリードリッヒ通り駅まで行って、売店で免税品を仕入れて西ベルリンに黙って戻れば…。自分で消費するほか、場合によっては多少の手数料を上乗せしても、西ベルリンでの正しい価格よりは安く売れます。ちょっとした金儲けにはなるかも知れません。実際に、こういうことをやっていた人がいたかどうかは分かりませんが、本格的にこれをやられたら西ベルリン側はたまりません。密輸と同じことですから。

そこで税関の登場です。

 ある日、私がこの電車でフリードリッヒ通り駅から西ベルリンに戻った時のことです。フリードリッヒ通り駅を出て、次の停車駅はもう西ベルリンです。電車がこの駅に着くと、税関の職員がどやどやと乗り込んで来ました。そして乗客一人一人に身分証明証であるエンブレムを見せて「税関です。荷物を開けて見せてください」と言って、バッグの中などをチェックしていました。税関といっても、密輸事件などに対応することもあって、皆さん、腰には短銃を携帯していて、結構ものものしい雰囲気ではありました。

 私もショルダーバッグを開けて中を見せました。特別なものは入っていないことを確認すると、税関職員はニコッとして「ダンケ」と言って次の乗客の席に向かいました。こういう方法で時々、抜き打ちで税関検査をしていたのでした。

壁付近を警戒する税関職員

 税関、ドイツ語では Zoll(ツォル)といいます。これが空港などだけでなく、西ベルリンでは壁際にもしばしば出没し、何の目的か境界地帯周辺も警備していました。上の写真もそうです。壁近くの小高い丘の上に車をとめ、東側を双眼鏡で見ています。まあ、でも壁際で警戒したって何が起きるわけでもありません。退屈です。他の場所では、車の中でトランプで遊んでいる職員も見かけました。

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